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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)5648号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人土田栄之助の負担とする。

理由

被告人上田恒弥の弁護人桝田光の上告趣意について。

所論は量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。

同被告人の弁護人森山邦雄の上告趣意第一点について。

憲法三七条二項が、被告人側の申請するすべての証人を取調べることを要求しているものでないことは、当裁判所のくりかえし判例とするところである(昭和二三年(れ)八八号同年六月二三日大法廷判決、集二巻七号七三四頁その他)。従って、第一審が所論証人上田俊子につき許否の決定を留保したまま結審したからといって、ただちに憲法の同条項に違反するものということはできない。その他所論は、憲法一一条、一二条、一三条、九七条、九九条をあげて違憲の主張をしているけれども、その実質は、右証人申請につき決定をしないで結審したという単なる刑訴法違反の主張に帰着するものであるから、適法な上告理由にあたらない。のみならず、記録を調べると、第一審第六回公判期日において、証拠調を終えようとするにあたり、「裁判官は訴訟関係人に対し反証の取調の請求其他の方法により証拠の証明力を争うことが出来る旨を告げた」ところ、「訴訟関係人は他に取調を請求する証拠はないと述べた」(三六八丁裏)のであるから(その後、弁論再開後の第九回公判期日においても、おなじような問答がくりかえされている。)、右証人上田俊子の取調請求は抛棄されたものと解すべきである(昭和二六年(あ)三五二四号同二八年四月三〇日第二小法廷決定、集七巻四号九〇四頁参照)。

同第二点について。

第一審判決は、「本件の検挙は結局は囮捜査に基因するものであることはこれを認めざるを得ないが、被告人上田、土田、古屋、稲石は麻薬取締官の働きかけとは全然関係なく麻薬の取引をする意図を有していたのである」と事実を判断し、原判決も、「被告人等の本件犯行が麻薬取締官の働きかけと全然関係なく為されたものなることは原判決の説明するところであり、しかも原判決の該認定に誤ありとするに由ない」として第一審の判断を支持しているのであって、所論違憲の主張は、この事実認定が誤りであることを前提とするものであるから、結局事実誤認の主張に帰着し、適法な上告理由にあたらない。

同第三点について。

量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

被告人上田栄之助の弁護人西村義太郎の上告趣意について。

所論は審理不尽、擬律錯誤の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

被告人稲石甫の弁護人高田完の上告趣意について。

所論は、審理不尽、事実誤認又は量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

被告人小森五作の弁護人小田泰三の上告趣意第一点について。

所論援用の判例は、賭博罪の判示方法に関するものであって、原判決はもとよりこれと相反する判断をしているわけではない。

同第二点及び第三点について。

論旨は単なる刑訴法違反の主張又は量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

また記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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